幸せな透析人生 9.11を忘れない

息子からの伝言   沢田聖子

その時 彼は105階にあるオフィスにいた よく晴れ渡った空が 眩しい火曜日の朝 真面目な彼は いつも誰よりも早く働き始めた その日も昨日と何ら変わりない朝の風景 突然の爆音 熱い爆風 砕け散るガラス いったい何が起きたのか 彼に知る由もなく 崩れ落ちる壁 黒い煙 宙を舞う書類 泣き声まじりの悲鳴 そして彼は天に昇った 失っても取りもどせるものはある 信頼や情愛 仕事やお金 失ったら 二度と取りもどせないものもある それは ひとりにひとつ与えられた生命 埃だらけの瓦礫の山に埋もれている彼を 一刻も早く見つけ出して抱きしめたい 24時間をこんなに長く感じたことはなく 来る日も来る日も 遣り場の無い怒りと悲しみ 気が遠くなるような一週間がやっと過ぎて 連絡が届いたのは あの日と同じ晴れた朝 「どうぞ、確認して下さい。あなたの息子(こども)ですか。」 両手に抱えられていたのは四角い肉体(からだ) 深い憎しみが同じ憎しみを生むだけならば 永遠に何も変われない 失っても取りもどせるものはある 信頼や情愛 仕事やお金 失ったら 二度と取りもどせないものもある それは ひとりにひとつ与えられた生命 どうか平和の鐘が世界中に鳴り響くように・・・・・・